ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「ごめん、待たせて」
「大丈夫。あっ、雅哉くんから電話あって、開店準備はやっておくから急がなくてもいいって」
「あいつ……何で梓に掛けてくるんだよっ。それに何で雅哉が梓の番号知ってるの?」
「この前教えた。ダメだった?」
「ダメじゃないけどさ」
なんだか不服そう?
今後のことを考えたら、彼には教えておいたほうがいいかとおもったんだけどなぁ。って、私に遼さんとの今後があるかどうか分からないけど……。
友達と出かけている奥さんを迎えに行く誠さんと別れると、帰りの途につく。
今まで土曜日といえば、1日中家でゴロゴロ。そのせいか、大した事をしてないのに疲れたみたいだ。
車の中の温かさが心地よく、だんだんと目が開けていられなくなってきた。
遼さんが何かを話しているみたいなのに、その声が耳に入ってこない。
そんな私に気づいた遼さんが、赤信号で止まると顔をのぞき込んだ。
「寝てるの?」
「ううん……寝てない……。だい……じょう……ぶ」
遼さんの笑い声に包まれながら、私は夢の中に落ちていった。
唇にふわりと何かが触れる。夢の中の出来事にしては、その感触がはっきりしていた。それを確かめるように指を唇に当てると、ゆっくり目を開けた。
「やっと起きた。梓、目覚めた? 到着したけど」
寝ぼけたまま声のする方に顔を向けると、遼さんが微笑んでいた。
「遼さん……」
名前を呼び、笑顔を返す。
目覚めて一番に遼さんの笑顔なんて、最高な気分だ。
もう一度とろんと微笑む。
……うん? 寝起きに遼さんの顔? どういうこと?
頭の中も目覚めてくると、今の状況を把握する。
わ、私、遼さんとの帰り道、全く覚えてない……。
と言うことは……運転してる遼さんの隣で、私ずっと寝てたっ!?
合わさっていた目線を外し、正面を向く。恥ずかしさと申し訳ない気持ちから両手で顔を覆うと、謝りの言葉を呟いた。