ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
それを待つように唇を薄く開けると、クスッと笑う声が聞こえた。
「ごめん、梓。このままキスしちゃうと、俺ヤバいかもしれない。梓のこと大切にしたいから、今はこれだけ……」
私を抱き寄せると、チュッと音を立てて頬にキスをした。
現実に引き戻されて羞恥心に悶えながらも、ゆっくりと目を開く。遼さんと目が合うと、お互い照れくさくて笑ってしまった。
「それに……」
「それに?」
そう言って一方を指差した。
「雅哉が見てる」
「えぇっ!?」
バッと指差す方に振り向けば、裏口の階段でしゃがみ込み手を振っている雅哉くんがいた。
「もう嫌ぁ~」
いつからあそこにいたんだろう……。
目を瞑って遼さんの唇を物欲しげに待ってたとこなんて見られてたら、私もう雅哉くんと顔を合わせられないっ!!
両手で顔を覆い恥ずかしさから身体を震わせていると、遼さんが肩を優しく叩く。
「雅哉なら大丈夫、口堅いし。悠希たちじゃなくて良かったじゃないか」
そういう問題じゃないんだけど……。
ため息をつき大きく肩を落とすと、近くまで来ていた雅哉くんが助手席のドアを開けた。
「先輩、梓さん、ごちそうさまでしたぁ~。なんか俺、急に彼女に会いたくなっちゃったよ。今日、店によんでもいいかなぁ?」
「勝手にしろっ」
やっぱり見てたのね……。
駄目だっ! なんて言ったら雅哉くん、何しでかすか分かったもんじゃないっ! そんな顔をしてる。
遼さん、雅哉くんは本当に口が堅いの?
困った顔をして頭を掻く遼さんの姿を見ると、心配になってきた。
「雅哉くん。このことは内密に」
だってこれは“おためしの恋愛”なんだから……。
忘れかけていた現実が、私に重くのしかかってきた。