ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「この赤い色が素敵だよね。まあ私は、彼女や枝里みたいにセクシーじゃないけど」
一口飲むと、独特の甘みが口いっぱいに広がった。でもアルコール度数が結構高そう。いくら酔いたい気分でも、何杯も飲むのはやめたほうがよさそうだ。
ひとりカクテルの美味しさに酔いながらトロンとしていると、マスターが唐突に話しかけてきた。
「ねぇ梓ちゃん。さっきの話、本当にそう思ってるの?」
「さっきの話?」
「お金さえあれば、一生ひとりで生きていけるって」
「あぁ、その話……。うん、そう思ってるけど」
「それって寂しくない?」
痛いところを突かれて、胸がチクっと痛んだ。
寂しいか……。それはその通りかもしれない。今はまだ親友や会社の女友達も、遊びや飲みに付き合ってくれている。でも彼女たちが結婚や出産をしたら、そういう訳にもいかなくなるだろう。それこそ、老後のことまで考えたら、もっと寂しくなりそうだ。
でも……。
「それでも、またあんな思いはしたくない」
「でもさ、世の中の男全員が、前の彼氏みたいとは限らないでしょ?」
「そ、それってどういう意味?」
「他の誰とも付き合わないで、そう決めちゃうのはもったいないってこと」
な、何か、いつものマスターと違う? 妖しい目つきと口調が、ちょっと気になるんですけど……。