ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
そんな事情もあり、特に陽子おばさんは俺を本当の子供のように接してくれる。
28になった今も子供扱いで、ちょっと困ることもあるけれど……。
二十歳の頃の俺のことを知らない陽子おばさんは、顔を合わせる度に「彼女、まだ連れてきてくれないの?」と俺の将来を心配した。昔の事情を知っている誠さんが「急かすなっ」と言ってもお構いなしだ。
これにはさすがの俺も参った。
いつかそんな日が来るならば、「近いうちに必ず連れてくるよ」と言えたが、俺には“結婚”という未来は無いに等しい。
陽子おばさんを喜ばす日はやって来ない……そう思っていた。
それが今回、いろいろなことが重なって梓という彼女を二人の前に連れて行くことができる。
まぁ、彼女と言ってしまうには早いかもしれないが、俺の中では決定事項だからしょうがない。
陽子おばさんの喜ぶ顔が見れると思うだけで、心が浮き足立つ。
その気持ちを落ち着かせるためと、いきなりで驚かせない様にするため、誠さんに電話をかけたというわけだ。
「明日だけど、一緒に連れていきたい女性がいるんだ」
『女性って、遼、お前……』
おためしの契約で付き合ってることは言えないが、親父からの要求、俺の梓に対する気持ちを話すと、電話の向こうで小さく息を吐くのが聞こえた。
『お前の気持ちはよく分かった。全く兄貴も、今さら何言ってるんだか……。やっぱり“小野瀬”からは逃げられないんだな、俺もお前も。遼、ちゃんと彼女を守ってやれるんだろうな?』
「もちろん、覚悟はできてる。俺も、誠さんと陽子おばさんのように幸せになってもいいよな?」
『当たり前だ。お前はもう、あの時のお前とは違う。誰にだって、幸せになる権利はあるんだからな』
その言葉に、胸が熱くなる。