ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
『でも残念だな。陽子は朝から町内の行事で出かけて一日いないんだよ』
そうなんだ……。本当は、一番喜んでくれるであろう陽子おばさんに会わせたかった。かと言って、決まっていることをキャンセルさせるようなことでもない。また梓を連れていけばいいだけのことだ。
「確かに残念だけど、これからはいつでも連れていけるしさ」
いつでも連れていける……自分で言って笑ってしまう。
まだ正式な彼女でもないのに、どこからそんな自身満々の言葉が出てくるんだろう。可笑しすぎて呆れるほどだ。
『どうした? 何笑ってる?』
「ごめん、何でもない」
『おかしな奴だな、お前は。まぁ明日待ってるよ。でもお前が彼女連れてくることを陽子が知ったら……怖いよな』
「俺もそう思う。こっちに乗り込んでくる前に会わせないとな」
二人、電話越しに大笑いすると、幾分気持ちも落ち着いてきた。
「一軒寄るところがあるから、着くのは昼過ぎになると思う。店があるから長居はできないけど……」
『カクテルグラスの仕上がりも上々だし、すぐ積めるように準備しておくよ。そうか、遼が彼女とねぇ……』
誠さんの感慨深い声を最後に、電話を切った。
と同時に、下から雅哉が上がってきた。
「遼先輩、片付け終わったんで帰るね。最後の点検、頼みますっ」
「おうっ雅哉、お疲れ!!」
ソファーから立ち上がり、深呼吸ひとつ。
そこには、電話をかける前と明らかに違う自分がいた。
明日はいろんな意味で、大切な一日になりそうだ……。
自分の決意を新たにすると、しっかりとした足取りで店の点検へと向かった。