ハニー・トラップ ~甘い恋をもう一度~
「梓っ、こっちこっち」
「真規子っ!?」
まさかの人物に驚き大声をあげると、予約席の個室スペースへと急ぐ。
中を覗けば、枝里が片肘ついて手を振っていた。
「おそーい」
「遅くないでしょっ! って言うか、何で広島にいるはずの真規子がここにいるのよ!?」
「はいはい、まずは座って座って」
真規子にそう促されて、訳の分からないまま椅子に腰掛けた。
真規子も枝里と同じく高校時代の同級生。悪友といったところか……。
何をするのもいつも一緒で、三人集まれば「うるさ過ぎて手に負えない」と担任もよく愚痴をこぼしていた。
今でも仲がいいのには変わりないが、真規子だけ広島の企業に就職したため、会うといえば盆暮れ正月くらい。まだ11月終わりのこんな時期にどうしたというのだろう。
「梓も赤ワインでいいよね?」
「あ、うん。ありがと」
「では、真規子の帰郷と梓の恋に……乾杯っ!!」
「乾杯っ!!」
枝里と真規子が声高らかに、ワイングラスを掲げた。
「ちょ、ちょっと待ってよっ!! 真規子の帰郷もだけど、私の恋に乾杯って何?」
「言葉の通りだけど? 何か疑問でも?」
枝里の圧力ある物言いに、怖気づいてしまう。
遼さんとのことを、ある程度まで話してある枝里には、どうも頭が上がらない。
「特に何もありません」小声で応え椅子に座り直すと、真規子に肩を撫でられた。