精神科に入院してきました。


いろんなことを考えて、ようやく気持ちを持ち直しかけてきたところに、
「お父さんが荷物持ってきてくれてるけど、洗濯物とかない?」
と女性看護師が部屋に入ってきた。


「私、荷物ないんですけど」
低い声で答えると、
「あ、そう詰所預かりか、はいはーい」
と軽く出ていく彼女の背中に、私は無意識のうちについて行っていた。



 私の荷物が詰所あずかりなんて、本人に聞かなくてもわかるでしょ。
なんで、なんで泣きやんだところに、わざわざ「お父さんが来てる」なんて泣きたくなるようなこと言うの。



 なんて無神経なの!!!!!!



お父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さんお父さん

会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい


最初は退院したくてたまらなかったのに、今は会えるだけでもいい、って思ってる。
女性ナースが、例の下界との扉の前について、私を振り返る。
「え?どしたの?」
悪意のない顔に、怒りが限界まで来ていた。


 ……理性が勝った。ここで怒ってしまったら拘束される。


怒りを抑えたら、涙がこぼれて、ううん、号泣してしまった。
「お父さん……そこまで来てるのに、なんで、……会いたい、会いたい」


小さな子どものように、保育園に初めて連れて行かれた幼児のように私は泣いた。
廊下にしゃがみこんで泣いた。


女性看護師は、
「あー……」
と言いながら、がちゃりと鍵を開けて出て行ってしまった。

こんなに訴えてるのに、こんなに訴えてるのに、どうして会わせてくれないの。
ねえ、どうしてどうしてどうして!


 お父さん、会いたい。ごめんねお父さん、びっくりしたよね、お父さんのいない間に勝手に首つって、勝手に病院に入って、そしてめそめそしてる。
 ごめんねお父さん。お父さんはいつだって優しいのに、私、そのことに感謝してたけど、きちんとわかってなかった、ありがたさ。


 こんなとこに入ってようやくわかる、お父さん、ありがとう。本当に本当にありがとう、大好き。会いたくてたまらない、お父さん……


< 37 / 65 >

この作品をシェア

pagetop