精神科に入院してきました。
ああ、ああ、さびしいのは私だけじゃなかった。

 Sおじいちゃんが怒りだしたのは、もしかしたら、昼間、I沢おばあちゃまに面会が来ていたのを見て、さびしくなったからかもしれない。


 自分には面会が来ない、年齢も忘れた。
そんな状況になったら、そう、きっと私だって、自分で自分への怒りを抑えられない。

しかも、このお年寄りたちは、私よりずっと前からここにいて、そして、いつまで……



 ここまで考えて、ぞっとした。
いつまで?


 私はきっと、いつかは出られる、出る。
だけど、この方たちは、もしかしたら死ぬまでここにいなきゃいけない。


 缶ジュースすら、代理の人が買いに行く、ここで。



……そんなのって、悲しすぎる。




 夕食をとって、もう一度ホールに行くと、お年寄りたちはいなくて、おとなしそうな中年男性が一人でテレビを見ていた。


 ……腕時計をしている。いいな。
私、時計は持てないのかな。

 なくてもいいや、と思った。
ここは時間がたつのが遅すぎて、時計なんか持っていると余計にイライラするだろう。


中年……彼もそろそろ名前で書こう、A本さんと二人でテレビを見ているときに、ちょっとした事件が起きた。


 夜7時ごろ。
ナースステーションの向こう側、あの牢屋みたいな部屋から、山男みたいにひげもじゃの男性が出てきた。

 部屋に鍵がかかっていないのか、とちょっとびっくりする。
まあ、自由に動いていい人は動かしてあげたらいいよね、と納得していると、彼は裸足のまま私たちの方に歩いてきた。


 いでたちはTシャツにトレーナーの長ズボン。
山男は私とA本さんのまわりをうろうろしたあと、公衆電話の前でいきなり、それをした。


 
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