精神科に入院してきました。
その日は、私たちはお風呂に入れない日だったが、要介護の人たちがお風呂に入る……というか、入れられる日だった。

 車いすの寝転んだバーションを想像してもらいたい。
それにシートベルトのようなものが何点かついているもの、に、患者は縛られてお風呂につけられるようだ。


 お風呂場から、あの幻覚さんの
「くさいっ!!!!!」
という叫び声と。ヘルパーさんの
「なんで怒るの?」
というどなり声が響いてきて、にぎやかだった。


「くさいくさいくさいくさいっ」
患者は叫び続けている。

 あくまで私の推測だけれど、彼女はきっと、お風呂にはいれない自分自身が臭くて嫌だったんじゃなかろうか。
 で、お風呂に入れられることになって、服を脱がされて、自分が臭いことを誰かに咎められている幻聴でも聞いたんじゃないか、と勝手に思う。

 たいしてお風呂の介助をしているヘルパーさんたちは、
「うるさい」
「誰もくさいなんて言ってへん!」
「ええ加減にして!」
とどなり散らしながらお風呂に入れている。


 本当に、幻覚や幻聴に理解のない病院だなあ。


私は、自分の荷物をもらえた喜びからか、いつになく落ち着いた気分でその騒々しい騒ぎを聞いていた。

 多分今までだったら、うるさい周囲にイラついていたのだけれど、その日はタオルをもらえたことが、着替えをもらえたことがうれしくて、とにかくウキウキしていた。

 一番のとどめにうれしかったのは、
「明日から面会が許可されました」
と言われたことだ。


 家族ともめて自殺しかけた私は、一週間の間、面会を制限されていた。

しかしながら、認知症のお年寄りばかりのなかでは、とにかく寂しくて、人恋しい。
 だから面会の許可がでたときにも、私は少し親しくなっていたナースさんと抱き合って喜んだ。



 
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