精神科に入院してきました。
そのナースさんは、ぽっちゃりした「おかあちゃん」的な雰囲気の女性で、私が荷物や面会許可に喜んでいると、少し涙ぐんで
「よかったねぇ、きっと明日面会にきてくれるよ」
と言ってくれた。

 看護師さんたちは日替わりで出勤してくる。
この北館にいなくても、本館に出勤していることもあるだろうし、夜勤あけでお休みということもある。

 だから私が二日間泣いていたことを知らないナースたちもいて、彼女たちからすると私は社交的で、いたってまともな若者、にみえていたらしい。

 そんなまとも(に見える)わたしだったから、看護師たちにも不憫にみえていたようだ。
「あっちの病棟いったら若い子もいるからね」
何人ものナースさんに言われた。


「テレビとか見ていいんやで?暇やろ?」
これも大勢に言われた。


 そのころ、昼にテレビで嵐の大野君主演の「魔王」の再放送をしていて、一人でそれを見ていたら、ヘルパーさんが、
「やったぁ。そのチャンネルにしといてよ、大野君好きやねん」
と、わざわざホールの掃除に来たり、
「やっぱ若い子おるとテレビええのつけてくれるからいいわぁ。……本人嫌やろけど、こっちの病棟」
と話しかけれくれたりもした。



 もう一人の若い子、あの中学生くらいにみえる少年はというと、ここしばらく食事をボイコットしていたらしく、「相談員」の中年女性にうまい棒一本を与えられてなにやら話をしていた。
 ……お菓子は食べるんだ。

彼は普段しゃべらないくせに、必死で
「帰りたい、ここからだして」
と相談員さんに訴え続けていたけれど、私が病院にいる間、ついに北館から出てくることはなかった。


 もう一人、親しくなっていたA本さんは、備品を壊した罰として、3時のジュースを禁じられ、手持無沙汰すぎて水を飲み過ぎ、おかげで手足がしびれるという事態に陥ったりしていた。

 A本さんは水を飲み過ぎておなかがパンパンになっては
「苦しい」
とナースに訴え、
「自己責任や」
と言われてすごすご帰ってきては
「水飲みすぎると寝転んでもしんどいんですわ」
と私にも訴えていた。
 彼の、「苦しくなると分かっているのに水を飲んでしまう」様子は、やはり「普通」ではなくて。

 そう、やっぱり病気なんだ、と思いながら、苦しいという彼の愚痴を聞いたり、水をとりにいこうとしたときに、
「A本さん、また苦しくなりますよ」
とおせっかいを言ってあげたりしていた。

 教えると、「あ、そうですね」と、水をとり行くのをやめる。
ほんのちょっとしたことなのに、そうやって彼を助けてあげる看護師さんがいない。
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