精神科に入院してきました。
二階に行って、私は遺書を書いた。
大好きな彼に。
仮に、Iさんとしておく。

あなたのせいじゃないのです……

確かそんな書き出しだったと思う。彼のせいじゃない、だからあなたが自分を責めることはない、あなたは生きて。
私はお母さんにもう疲れた。


そんな感じのことを便せん一枚に書いて、机の上において、私は部屋の奥にある着物ダンスをガサガサやって、帯を取り出した。


 本気?
ーうん、本気。
 しんじゃうよ。
ーそうだね、楽になれるよ。


自分と会話しながら、私、その時実家にあったありったけの睡眠薬を飲んだ。
ビビットエースっていうやつ。
数が少なくて、眠くはならなかったけど、どうせ首をつるんだから、穏やかに死ねる助けになればと思った。
どこかで、首つりをすると失禁をするって読んだから、生理用のナプキンをつけた。
これで遺体の見苦しさは半減するかな。


そして私は帯をとり、二階の布団干しにしっかり縛り付けると、帯の大きな円状の一部を首に巻いて、後ろでクロスさせて、二階から、飛び降りた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
……なのちゃん。
…………華乃ちゃん。

声がする。
私、寝てるのかな。


はなのちゃん。
  ああ、おばあちゃんの声。
あれ、私なにしてたっけ?
自殺しようとした、夢を見たような。


「はなのちゃん!」



目が覚めた、目の前がモザイク模様にちかちかして、なんだか苦しい。
私は本能的に身をよじった。


あれ、わたしぶらさがってる?なんで?

ジョークみたいに青空が見えた。


なんでぶらさがってる?
なんか苦しい。



庭を、同居しているおばあちゃんが、悪い脚を引きずって、つえをつきながら危なっかしく私の方へ歩いてくる。
 おばあちゃんがこけたら大変だ。



……そうか、自殺。
しようとした。
夢じゃなかった。
私、ほんとにやったんだ。


そして見つかった。
そう。
失敗、した。


悟った私は、庭をつえをついて歩いているおばあちゃんが転倒でもしたら大変だと、自分の命は粗末にしている癖に思った。
おばあちゃんに怪我なんてさせられない。

私は首の後ろでクロスしていた帯を、身体をひねってU字型にし、落下した。

コンクリートの上に落ちたけど、体中がしびれて感覚がなくて。
母が庭を走ってくる、祖母がこちらに来ようとしている。
おばあちゃん、危ないよ、立とうと思うけれど力が入らない。



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