精神科に入院してきました。
夕食後、お年寄りたちがまだ部屋に戻される前に、I沢おばあちゃまとN辻さんが話していた。
おばあちゃまは、失禁だとか、食事をこぼしたりだとか、何か失敗をすると
「バカって言われる」
とN辻さんに訴える。
N辻さんは
「ばかちゃうよ、かしこいよ、っていい返したり」
とおばあちゃまに答えた。
おばあちゃまはまた言う。
「ばかーっていわれるねん」
「誰に言われるの?」
おばあちゃまは、悪い身体から声を振り絞って、
「看護婦さん、お手伝いさん」
と答えた。
やはりこの年齢層の方には看護師だとか、介護ヘルパーという単語は浸透していないらしい。
N辻さんは
「あー……」
と少し納得した後、
「バカって言ったらあかんで、て言うたり。それにばあちゃん、好きな看護婦さんいたやん?」
と見事に話題を変えた。
確かに、この病院では縛られている老人が放して、というと
「あかんっちゅうてるやろっ」
と男性ナースがどなりつけて静かにさせている。
でもこのI沢おばあちゃまは本当に物静かで上品で、強いて言うなら少し頑固なくらい、そんな扱いやすい患者さんなのに、やっぱり怒られるのか、それとも認知症にありがちな被害妄想か。
私にはわからないけれど、とにかくN辻さんの話題転換はプロ並みで、そのあとI沢おばあちゃまはお気に入りの、丁寧で謙虚な若い女性ナースについてご機嫌で話し始めた。
そんな様子を片目でみながら、N辻さんは私に言う。
「……ばーちゃんとの会話疲れるわぁ」
……私はN辻さんを師匠と呼ぶことにした。
この狭い狭い空間で、みんな自由がなくて、そんな中でなんとか穏やかさを保っているのは、ひとえにN辻さんがお年寄りたちとお話しているからだ。
ナースにも、もちろん医者にも、人手不足でお見かけしたことのない精神保健福祉士にもできない「心のケア」を、本来患者であるはずの彼女がしている。
そしてそのありがたみに気付いている医療関係者は皆無だ。
おばあちゃまは、失禁だとか、食事をこぼしたりだとか、何か失敗をすると
「バカって言われる」
とN辻さんに訴える。
N辻さんは
「ばかちゃうよ、かしこいよ、っていい返したり」
とおばあちゃまに答えた。
おばあちゃまはまた言う。
「ばかーっていわれるねん」
「誰に言われるの?」
おばあちゃまは、悪い身体から声を振り絞って、
「看護婦さん、お手伝いさん」
と答えた。
やはりこの年齢層の方には看護師だとか、介護ヘルパーという単語は浸透していないらしい。
N辻さんは
「あー……」
と少し納得した後、
「バカって言ったらあかんで、て言うたり。それにばあちゃん、好きな看護婦さんいたやん?」
と見事に話題を変えた。
確かに、この病院では縛られている老人が放して、というと
「あかんっちゅうてるやろっ」
と男性ナースがどなりつけて静かにさせている。
でもこのI沢おばあちゃまは本当に物静かで上品で、強いて言うなら少し頑固なくらい、そんな扱いやすい患者さんなのに、やっぱり怒られるのか、それとも認知症にありがちな被害妄想か。
私にはわからないけれど、とにかくN辻さんの話題転換はプロ並みで、そのあとI沢おばあちゃまはお気に入りの、丁寧で謙虚な若い女性ナースについてご機嫌で話し始めた。
そんな様子を片目でみながら、N辻さんは私に言う。
「……ばーちゃんとの会話疲れるわぁ」
……私はN辻さんを師匠と呼ぶことにした。
この狭い狭い空間で、みんな自由がなくて、そんな中でなんとか穏やかさを保っているのは、ひとえにN辻さんがお年寄りたちとお話しているからだ。
ナースにも、もちろん医者にも、人手不足でお見かけしたことのない精神保健福祉士にもできない「心のケア」を、本来患者であるはずの彼女がしている。
そしてそのありがたみに気付いている医療関係者は皆無だ。