精神科に入院してきました。
やがて病室についたらしく、
「ベッドに移ってもらえる?動ける?」
とナースに言われた、気がする。


ナースは女性だったような気がする。

そのころには全身のしびれも治って、私は普通の疲れた人、みたいに
「はい」
とストレッチャーから降りて、病院のベッドに移った。


私は看護師さんに聞いた?
「あの、母は?」


このときすでに、周りは見知らぬ病院スタッフばかり。
ワゴン車の中より意識がはっきりしてきた私は、知らない人ばかりの環境が少し怖かった。


「お母さん……は、病院に一緒に来たの?」
ナースたちは母を知らないと答えた。

母ともめたくせに、入院となると病室くらいまでは母が付き添ってくれるだろうと期待していた私は、ひどく落ち込んだ。


そして落ち込んだのは正解だったのである。
なにせこのあと、ずいぶんと長い間、私は面会謝絶になったのだから。



さて、そのころはすでに夕方だったのかもしれない。
私を運んできた人々が部屋から出て行き、私はカーテンを開けることもなく、ベッドにうずくまっていた。

たしか、とても暗い気持ちだったと思う。



昔から、生きているのが面倒と感じることが何度もあった。
薬の大量服用で病院に行ったのは一度だけ。
大学生の時。


おもえばずっと。
私は死にたかった。




…………



いろいろ考えていたら、看護師さんが食事を持ってきてくれた。
「食べられますか?」
心配そうに聞かれた。


私は
「ありがとうございます」
と答えて、ポークソテーとサラダと、フルーツとごはんを……
どれくらい食べたのかは忘れてしまったけれど、とにかく普通に食べた気がする。


そのとき使った割りばしを、看護師さんがそのまま部屋に置いていったのには驚いた。
……衛生的に、割り箸だぞ?使い捨てるべきじゃなかろうか。



それから、ようやく部屋を眺める余裕ができて、ベッドに座った。
部屋の中に、洗面台と、部屋として独立しているトイレがあり、きれいで狭い部屋だった。


イメージしていたいわゆる保護室的なところではない、ごく普通の部屋。
棚もある。



……歯磨きをしたいな。
食事をとったので、口が気持ち悪くて、私は洗面台の前に行った。
そして、看護師さんが心配そうに「食べられますか?」と聞いた理由を知る。
なんとまあ、私の首にはくっきりと痣が残っていた。正直グロい。




なるほどね、これはなんというか飲み込めるのか心配なグロさだ。
思いながらとりあえず両手で水をすくって口をすすぎ、タオルがないことに気付いた。
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