あのとき君は
走っているうちにも理解できない感情が形となって、頬をぬらした。


ちょうど公園を出たころ、
涙でほとんど前が見えない私は、足元の段差に気づかず、アスファルトの上を転がった。


じんじんする膝を見ると、皮が擦りむけて血が流れて出てきている。


そこまでひどい怪我ではないが、血が出ているという恐怖で、私の涙は加速する。


「美月!!」

声をたどると、追いかけてきてくれていた彼が、その後ろからは千秋くんがいた。



「大丈夫?」

目を丸くして問う彼に私はただ泣きじゃくるしかなかった。


すると、ポケットに手をいれ、少ししおれた小さな花を取り出した。




「これ、ぎ、ん、も、く、せ、い(銀木犀)って言うんだ。俺の好きな花。
あげるから。あげるから。もう泣かないで?」


手のひらにちょこんと乗った白い花からは
甘い香りがする。

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