traitor
「......―――ンノシュウ、サノメグミ、ヒマキウミ、フジ―――...」
朦朧とした意識の中で微かに聞こえる声。
その声はお母さんでもなければお父さんでもない。
学校の先生でもないし近所のおばちゃんでもない。
全く知らない声だった。
その声は何かの呪文のようにずっと流れていた。
”ヒマキウミ”
あたしの名前。
大好きだった両親が付けてくれた名前。
でもそれも確かではないのか。
あぁ。
きっとこれはあの世行きのバスなんだ。
死んだものの名前を読み上げているんだ。
宇深はそう思っていた。
だけど、
「ねぇおじさん。
このバス一体何処に行くの?」
可愛らしい声が届いた。
さっきの声とまた違う高めの声が。
「...着くまで教えられない」
今度はバスいっぱいに低い声が響いた...