君がくれたモノ
「西に向かいました。」

男は蒼の言葉に安心したのか、少しだけ落ち着きを取り戻したように見えた。


西‥令の住む村があるところか‥?


令はこの淋江の町から西にある村に住んでいると噂で蒼は聞いていた。
住んでいると行っても隠れ家的な場所で、本当のところは知らない。
しかし今の蒼は、その噂に頼るしかなかった。

すぐに莉奈を追いかけたい。蒼の頭の中にはその事しかない。

「ありがとうございます。あと‥」

蒼は男に笑顔で礼を言った。

19歳の国の王。
王たる者は、何があろうとも国民に不安を与えてはいけない。

亡くなった王がいつもそう口にしていたのだ。
本当は今すぐ走って莉奈の後を追いたい。だがそうする事によってこの男は間違いなく不安な気持ちになる、それを蒼は避けなければならかった。

「この指輪を一つ、頂きたいんですが。」

それは莉奈が見ていたという指輪だった。

「あ‥ありがとうございます!蒼様。」

男は丁寧に頭を下げて蒼に指輪を渡した。

蒼は指輪を持ち、莉奈の連れ去られた西へと急ぐ。
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