雨、ときどきセンセイ。
『面白そうだけど、さすがに席外すわ! その代わり週明け……いや、メールで教えてよ』
掃除を終えたみっちゃんに事情を話したら、予想通りの答えが返ってきて苦笑した。
誰も居ない教室。
私一人だからなんとなく電気も消したままで。
両手で頬杖をついて、黒板の上にある時計を見る。
……もうすぐ。約束の時間まであと5分、か。
そう思ってちらりと後ろの方の水越の席に目をやる。
その机の上にはカバンがそのまま置いてあって。
はぁ、と溜め息を吐いて、また前を向く。
教壇と、黒板と。
それが視界に入った後、ゆっくりと目を瞑る。
そうしたら瞼の裏に映し出されるのはセンセイ。
授業が始まる時に、その教壇に立って少し目を伏せる。
綺麗で長い指が教科書を捲り、白いケースからチョークを拾い上げて背を向ける。
スーツ姿がとても似合うよなぁ、なんて改めて思い返す。
黒板に書かれる文字やそれを奏でる音ですらも、心を奪われるほど。
……音、と言えば一番はあの声。
あの声で、名前を発音されたときの感覚と言ったら例えようがない。
『吉井』
私の耳が、脳が、心が、それを記憶していて――。
「吉井」
その現実に聞こえた声にぱちんと弾かれたように目を覚ます。