雨、ときどきセンセイ。
ガタッと椅子から立つ音が、一人きりだった教室にはやけに大きく響いた。
「こんな暗い中……怖いヤツだな」
そう言って教室に入ってきたのは……。
「せ、センセイ……!」
……うそ!
まさか、本当にセンセイに会えるなんて!
一気に鼓動が速まって、私は立ったまま動けなかった。
センセイは後ろの入り口から静かに教室に入ってくる。
黙ってセンセイの動きだけを目で追う。
センセイは机の間を通って教室の前へと行くと、前方の掲示板のプリントを取り変え始めた。
その後ろ姿をそのまま見つめる。
すると、作業をしながらセンセイが言った。
「また、傘でも忘れたのか」
その質問で、あの雨の日を思い出す。
拒否されて、だけど黒い傘を私に預けてくれた、あの日。
完全に終わったと、そう思って泣いて帰った。
だけど、翌日センセイは私の前に現れて……。
「懲りないヤツだな」
プリントの差し替えが終わったセンセイが振り向いて笑った。
「べ、別に、またセンセイに押しかけようだなんて」
そこまで、思ってはいなかったけど。
だけど、ちょっと“会えたら”と思っていたのは事実。
机3列分くらいの距離を、私たちは黙って視線を交錯させる。
そのセンセイの視線が、ちらっと動いたのに気付いた。
「ああ。また“約束”してたのか」
そう言われてパッと何を見たのか確認したら、そこには水越の席にカバンがあって。
「じゃ、傘の心配とか要らないか」
目を伏せてセンセイはまた笑う。