雨、ときどきセンセイ。
「……っ」
センセイに逆に聞かれた水越は何も答えられずに俯いた。
そして机のカバンを手に取って、私の腕もまた掴まれる。
「……行こう!」
私にしか聞こえなさそうな声で水越が言って足早に教室を出た。
ふと、隣の教室を過ぎようとした時に人の気配を感じた。
けど、何も気づいてない水越の足は止まってくれない。
私は抵抗するように少し重心を後ろに預けて耳を澄ませる。
「……香川先生」
それはセンセイの声。
少しずつ遠ざかる声を懸命に拾う。
「御迷惑でなければ、“また”」
「校内で、下手すれば噂になります」
「あら、事実ですし」
『また』ってなに。
『事実』ってどういうこと。
香川先生はどうしてタイミング良く、そんなとこに居たの?
それ以降は、階段を下る私と水越の足音だけで、センセイたちの声が聞こえなくなった。
――疑ったりなんて、絶対しない。
私は心で強くそう思う。
センセイは、うそをついたりしてない。
少なくとも私の家に来てくれた時から、二人になった時に言ってくれたことは全て、本当のことだと思うから。
だから、私は。
そうして立ち止まった水越が振り向いたときに、責めるわけでも、問い質すわけでもなく、ただ真っ直ぐと向き合った。