雨、ときどきセンセイ。
その私の反応は、水越にとって意外なものだったんだと思う。
水越は私に正面から見据えられるだけだったのに驚いたようで目を丸くしていた。
そして掴んでいた手を「ごめん」と言って解放した。
雨の音。
それは教室で聞くよりも、一層大きな音に聞こえる。
ここが玄関だからかもしれないし、さっきより雨足が強くなったのかもしれない。
余計に静かに感じる、薄暗く肌寒い玄関で、私と水越はまだ向き合ったまま。
「吉井、傘あんの?」
急にぽつりと水越が言った。
「折りたたみ傘、あるから」
それに対して淡々と答えた。
それから、少し間を開けて水越が言う。
「……怒んないんだな」
苦笑をして、目を逸らした。
そんな水越を、私はじっと見たまま。
その視線に答えるようにちらっと再び私を見てから付け足した。
「なんか、最近ブレーキきかなくて」
ああ、なんかそれ、分かる気がする。
水越の言葉に、私は物凄く共感した。
きっと、人を好きになるって、その“好き”が大きければ大きい程、そういう機能が鈍くなるんだと私も思う。
だからますます水越を軽蔑したりする気も起きない。
「だから、今日吉井に『待てる?』って頼んだんだ」
「? どういうこと?」
「絶対、ブレーキきかなくなるから、それなら吉井本人にぶつかりたかったから」
水越の説明の意図がイマイチ理解出来ない。
私が考え込むような顔をすると、水越が何かを決心するような息をひとつ吐いた。