雨、ときどきセンセイ。

「香川先生の言う『事実』……」


私のその言葉にセンセイは少し驚いた顔をしてた。


「……聞いてたのか?」


私はセンセイの質問に、ふるふるっと首を横に振った。


「全部は聞いてない」
「……それで?」


センセイは動揺することも、投げやりになるでもなく私の言葉を待っている。


もしも。

もしも、今私が突き放すような、諦めるようなことをセンセイに伝えたのなら。
それでもセンセイはその態勢を崩すことなく、そのまま受け入れるのだろう。

その瞳に悲しそうな色を浮かべて。


「『事実』は私の中にあるものだけで充分だから」


誰かの『事実』なんて必要ない。

今の私にとって、自分とセンセイ以外のものは。

それが、私の“答え”だと思うから。


「センセイの“解答”は?」


私は私の答えがあるように。
センセイにはセンセイの答えがあるはず。

やっぱり、答えは一通りじゃないってきっとセンセイも思ってるよね?


少しずつ、晴れ間が見えてきて、光がセンセイを照らす。


「……わからない」


濡れた髪と、揺らいだ瞳でセンセイはそう言った。






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