雨、ときどきセンセイ。

「あ、上がってる!」
「ラッキー。早くいこ!」


遠くから女子生徒らしき声が聞こえてきた。

その声に、いつかの日と同じように、私はセンセイに隠された。


白い車の影に私がしゃがみこむように、肩に手を置いたセンセイ。

――その瞬間、私はセンセイの腕を掴んで引っ張った。


パシャッと小さな水音を上げて、私は濡れた地面にお尻をつき、センセイは片手を水たまりに沈めてた。


今までで一番近い距離。

ドキドキと私の胸は高鳴る一方で、頭の中はやけに静か。


センセイの顔が目の前にある。
その黒い瞳が私を映してるのがわかるほど近くに。

その瞳を逃したくなくて、瞬きもせずに見つめてた。


センセイが、その状態のまま言った。


「……バカ。濡れただろ」
「……ごめんなさい」
「違う。お前が」


こんな時に、やっぱり優しい人だと思った。

私を立ちやすくする為にセンセイは私の前からよけようと動いた時に、センセイの袖口をきゅっと掴んで離さなかった。


「わかんなくても、いい」


そしてまた、センセイの目を覗きこむ。


「正解なんて、誰にもわからないし、決められない。それでいいんじゃないの? 自分で……二人で、答えを作って行けばいいんじゃないの?」


誰かの決めた“答え”に当てはまりたくなんかない。

世間ではどうであろうと。


だから、センセイの本当の心(こえ)を。

それだけが私の『事実』となるものだから。


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