雨、ときどきセンセイ。
「『それ以上踏み込んだら、後戻りできない』」
センセイが俯いて言った。
「戻るつもりなんて」
「……そう言われた時に、俺もお前と同じことを言った」
「……え?」
「『戻るつもりなんてない』って」
……ていうことは、さっきの言葉は、過去にセンセイが本当に言われた言葉?
「吉井の言うとおりだ。俺は俺の先生とは違う」
センセイが触れてる腕の部分が熱い。
そして、さっきとは違う鼓動が鳴る。
ドキドキ、じゃなくて、キュウキュウと。
苦く、鈍く、締め付けられる。
「だから、だ。俺とお前は違うかもしれないけど、似てるんだ」
「ど、どうして」
似てたらどうしてダメなの?
想いが同じなら、問題ないんじゃないの?
センセイに問い詰めるような顔を向けたら、ゆっくりと顔を上げたセンセイの瞳に捕まった。
「やっぱり俺は教師で、お前は生徒だから」
そんな真剣に、真っ直ぐと見つめられて言われてしまったら、もう何も出来やしない。
そっと掴まれていた手も離れて行くと同時に、私の心もストンと落ちて。
さっきから濡れていた筈のスカートからの冷たさも一気に感じられる。
センセイは立たずに、そのまま私の正面にしゃがんでいて、私は先に立ちあがるとセンセイをそのままにその場から立ち去った。