雨、ときどきセンセイ。


「―――え…?」


不意に携帯を差し出され、反射的にそれを私は受け取った。
それと同時にセンセイがズボンのポケットに手を突っ込みながら机から立ち上がると私に一歩近づいて一言言った。


「メンドーなのは嫌いなんだ」


そうして私とすれ違うほんの一瞬、私を見下ろして、ふっと笑った。

それは優しい笑いなんかじゃない。
でも、怖くはなくて。

次の瞬間、もうセンセイは完全に私に背を向けていた。


「真山セン――」


私の呼び声の途中で顔だけ半分振り向くと、ぽつりと感情の読みとれない声色で言われた。


「―――お互いに他言無用」


そしてセンセイはもう振り向くことなく、ガチャンと音楽室の重い扉を開けて出て行ってしまった。

私は暫くセンセイが出て行ったその目の前の扉をただ立って見ていた。
それから少しして、手元に戻った携帯に視線を落とす。

『メンドーなのは嫌い』

“メンドー”っていうのはどういうこと?
携帯を没収すること?私と関わること?

それに『他言無用』って…音楽室(ココ)にいたこと…?


なおさら気になることを増やして、その日私は遅い帰宅をした。

< 14 / 183 >

この作品をシェア

pagetop