雨、ときどきセンセイ。

あの日から、センセイは私を見てくれない。

それは“生徒以上”の視線を向けてくれないってことで、それ以外は普通に担任として接してくれている。


そうこうしているうちに、世間ではバレンタインデーという日。


水越には、事実を――……。

『センセイとは何もないけど、それでも私の気持ちは変わらない』

そういうことをハッキリと伝えて頭を下げたのだけど、「わかった」と言っただけで、それからも相変わらず私に近づいてくる。


別にいいんだけど。

水越は嫌いじゃないし、すぐに切り替えられない想いって、今よくわかるし。

だけど、さっきの義理チョコひとつでちょっと嬉しそうな顔をしていたのに気付いてしまった時には切なくなった。

突き放せない私はひどいかな。


そう思いながら、カバンの中の包みに手を添える。


そこには“切り替えられない想い”が詰まっているもの。


本当、我ながらこんなに執着するタイプだなんて思ってもみなかった。

こんなベタな、チョコレートでいまさら何かが変えられるなんて思っていないのに。
それでも、何か残したくて、伝えたくて。


私はそれを、職員室ではなくてセンセイの車のサイドミラーに袋に入れて掛けておいた。


『卒業まで、想わせて』


名も名乗らずに、そう一言添えて。


< 140 / 183 >

この作品をシェア

pagetop