雨、ときどきセンセイ。
「はい、いくよー」
ピピッと音が鳴りフラッシュが光る。
胸に胸章を付け、そこかしこで写真を撮る教室内。
私はというと、カメラ自体持ってこなくて、時折友達に声を掛けられては、レンズに向かって微笑んだ。
「すごいねーみんなの撮影会」
シャッターを切り終わると同時に、登校してきたみっちゃんが言った。
「みっちゃんは?」
「なんか面倒で」
「そんな感じだよね、みっちゃんは」
笑って私はそう返した。
みっちゃんて、さばさばしてるとこあるから。
「でも、遠距離になっちゃうなら、写真一枚くらいあってもいいんじゃないの?」
至って普通の声でみっちゃんに言った。
周りはざわついていて、絶対誰にも聞こえないと思ったから。
私の意見に、珍しくみっちゃんが顔を赤くして口をぱくぱくとさせたあと、バシッと思い切り肩を叩かれる。
「いたっ!」
「梨乃が急にそんな話題するから!」
「ごめんごめん。でも本当、行かなくていいの?写メ」
「んー……じゃ、ちょっとだけ覗いてくる」
カバンを置いたみっちゃんが、目を泳がせながらそう言って教室を出て行った。
みっちゃんは、バレンタインの時に片想い中だった他クラスの男子とめでたく付き合うことになって。
受験が落ち着くその時まで、大事に温めてた想いだって知ってたから素直に嬉しくて。
だけど遠距離を余儀無くされる二人はどうなるのかな、と心配にもなるけど私は応援するだけ。
そしてそんなみっちゃんが、やっぱり羨ましく感じてしまう。
私には、そんな権利も希望もないから。
今日、カメラを手にしなかったのはそういう思いが大きくて―――。
作り笑いの裏の自分の心を、写真を見る度に思い出してしまいそうだったから。