雨、ときどきセンセイ。
出席番号順に呼ばれ、教壇で対面して卒業証書を一人ずつ受け取る。
出席番号。
このクラスでは、私は一番最後。
「矢田萌」
「はい」
あと、一人。
「由良佳苗」
「はい」
……次だ。
「吉井、梨乃」
その声で呼ばれてみたかった、下の名前。
こんな形とは言え、その願いが叶えられて目が潤む。
「……はい」
喉が一気に渇いて、張り付いて。
ちょっと掠れてしまったのが、センセイには気付かれたかな?
でも、卒業式だし、感無量になってのことだとクラスの皆も別に不思議に思うことはないか。
大体もう最後の最後だと、皆の意識も散漫してきてて、私がセンセイから卒業証書を受け取るのなんて見ちゃいない。
そう思いながら私はセンセイの待つ教壇の前まで向かって足を止めた。
ゆっくりと手元から視線を上げてセンセイを見上げる。
「おめでとう」
それは私だけに言ってくれている言葉じゃないから。
クラス皆に言ってた、“皆(生徒)と同じ扱い”の言葉だから。
だから、私はその『おめでとう』を素直に喜べない。
そんな想いから、私は一瞬しかセンセイの目を見ることが出来なくて、フイッと俯くようにしながらその証書を受け取った。
……せっかく、最後のセンセイとの時間だったのに。
そんな小さな後悔をすぐにしながら一礼した時だった。