雨、ときどきセンセイ。
「至らない点があったとは思うけど、自分なりにこの1年間は君たちを支えようと頑張ってきたつもりです。
それと同時に色々と俺自身も成長させられた。どうもありがとう」
センセイがそんな話をしているのに、私の耳には通り抜けるだけで頭にはなにも入ってなかった。
「あー……じゃあ、みんな、元気で」
そんなぎこちないセンセイのシメの言葉に教室の中がいつもの和やかな雰囲気に変わる。
「せんせーあっさりだなぁ」
「色々言ってて、内心『せーせーした』とか?」
「やっぱ、真山せんせは泣かないかぁ!」
そんな野次も飛び交って、一気に笑いに包まれる。
「……そりゃお前らの方だろ」
後ろには保護者もいるのに、もう本当いつもの感じに戻ってそう返すセンセイに、皆もいつもどおりの反応をする。
「はいはい。ほら、親御さんもいるんだから、俺に迷惑掛けんな」
冗談混じりにセンセイはそう言って皆を窘めた。
「それじゃあ、最後の号令」
「起立」との日直の声で一斉に席を立つ。
私は慌ててそれに合わせるように立って礼をした。
そうして終わった高校生活。
生徒はセンセイを捕まえて写真をねだったり、これからどこかへ行こうなんて話をしながら下校する。
「梨乃。今日なんだけど」
「あ、みっちゃん。うん。気にしないで」
「ん。ごめん。ありがと!」
みっちゃんの“彼氏”は地元から離れてしまうから。
あと少しの時間しか近くにいられないから。
だから私は笑顔でみっちゃんの背中を押した。
照れたようにはにかんで、教室から出るみっちゃんの姿に自然と笑みが零れる。
そんな背中を見てたら、急に立ち止まってくるりと私を向いた。
「梨乃! 頑張れ!」
小さくガッツポーズをしてみっちゃんが言う。
私はそれに一瞬目を丸くしたけど、すぐにコクリと小さく、でも確かに頷いた。