雨、ときどきセンセイ。
「おはよ」
「おはよー…一緒に来たの?」
「まさか。廊下で声掛けられた」
「案外待ち伏せだったりして」
「もう!」
水越に聞こえない声でそんな会話を交わしたら、すぐにチャイムが鳴り響いた。
このチャイムが鳴り始めると、ざわざわと生徒は自分の席に着く。
そして、そのざわつきは収まらぬままセンセイを待つ。
足音は聞こえない。
だけど、私は目を閉じてセンセイの音をいち早く捕まえようと集中する。
コツン…。
―――ガラ。
それはセンセイが教室に着いて足を止め、ドアを開けた音。
その瞬間からさっきまでのうるささがなくなって、生徒みんながセンセイに注目する。
少し伏し目がちに歩き進めて教壇に立つ。
手にしていた出席簿をトンっと立ててからその教壇に置いて、ゆっくりとその視線を上げる。
「日直」
そして掛けられる号令と共に、今日も同じ一日が始まる。
でも、私は今までと同じじゃない。
スカートの上にある手でぎゅっと携帯を握りしめて私はセンセイを見つめる。
「…吉井」
「…はい」
淡々と出席を取るセンセイは、悔しいくらいにいつもの真山センセイだ。
まるで昨日のことが嘘だと思わされる位に。
私の一秒たりとも逸らさぬ視線をものともしないで、センセイはSHRをいつもどおりに終えた。