雨、ときどきセンセイ。
「……なっ!」
赤い顔をして声を上げたのは私じゃなく水越。
私は全神経が背後に……髪に、集中されてしまって硬直状態だった。
「……厳密にはまだお前らの“担任”だけど。でも『ハッキリしろ』って言ったのは水越、お前だからな。多少目を瞑れよ」
私は相変わらず後ろを向くことが出来ない。
見えるのは、茫然とした瞳を私の後ろに向けている水越の顔だけで……。
……一体、何が起きてるの?
センセイは今、どんな表情(カオ)でそこに立っているの?
「……マジ、かよ……。じゃあ香川センセはどうす」
「ああ、その話か。悪かったな、巻き込んで。ご心配なく。元々捻じ曲げられた話だ」
「は……? でも、確かにオレは付き合ってるって聞いて」
「だから、今謝っただろ。つっても俺が謝ることじゃない気もするけどな」
顔を見なくても、その声色からセンセイの表情が想像出来る気がした。
きっと不敵な笑みを浮かべて、余裕のある雰囲気で水越と向き合っているんだ。
私がそんなことを頭に張り巡らせていると、水越の視線に気づいて思考が停止した。
水越は何も言わず……いや、言えずに何か私に訴えるような目を向ける。
「……あ……の」
その視線に何か応えなきゃいけない気がして口を開いたものの、続く言葉が全く思いつかない。
そんな私に、水越は先に整理をつけたのかまっすぐに問いかけて来た。
「本当なのか? 吉井は信じたの? こんな都合のいい話を」
水越は肩に掛けていたカバンを握る手に力を込めてそう言った。
私に向けられた視線の合間にセンセイを睨みつけるようにしていたけど、センセイが動く気配はない。
「……またなんにも言わねえのかよ」
そんなセンセイに水越は苛立ちをぶつける。
その言葉と同時に、水越が握りしめた手を動かそうとして見えた私は慌てて一歩前に出て言い返した。