雨、ときどきセンセイ。
「――‼」
水越の顔が一瞬で赤くなる。
だけどセンセイは関係なく続けた。
「お前と同じ歳の頃だったら、こんな風に冷静に考えて動くことは出来なかっただろうけどな」
同じ歳の頃……。
その頃のセンセイと私が似ているなら、確かにこんなふうになってないと思う。
周りなんか見えなくて、ただ、心のままに突き進んで……。
だけど、もしもそんなことを今、していたのなら。
私もセンセイもお互いしか目に入らない、狭い視野だったら。
水越だけじゃなくて、他の生徒、教師…もしかしたら親まで巻き込んだ挙句に、結局繋ぎ掛けた手を離さざるを得ない状況になってた。
「吉井は絶対、俺を信じてくれるとわかってたから」
そう言ったセンセイは直後、私の手首を掴んで引き寄せた。
一瞬でセンセイの傍に寄り添う形になったことが信じられなくて、私は息を止めてた。
「正解だろ?」
そして真近で私を見下ろすように顔を向き合わせて、静かに言う。
そんな声で、目で、この掴まれたままの手で。
自信ありげに問われたら、私が耳まで紅潮して固まることくらい、計算しているはずなのに。
センセイはそれを面白がるように、笑みを浮かべてた。
「あ……」
「もういい」
私が水越の存在を忘れて、赤い顔をセンセイに向けたまま、必死で声を漏らした時に後ろから声がした。
「もう、わかった。……オレには勝ち目がないってこと」
私がセンセイからようやく、視線を逸らすように水越を見た。
すると、力なく笑う水越が視界に入った。
「真山センセに、じゃないから。吉井の気持ちに、勝てそうもないってこと」
水越は「はぁ」と溜め息をついてそう言うと私をじっと見つめた。
「そんなに本気だと思ってなかった。正直、すぐに諦める程度の……ミーハー心からかと思ってた部分、あったから」
「水越……」
「他の女子と同じ程度の想いだと、どっかで思ってたんだと思う」
『ごめん』と今また謝るのも違う気がする。
こんなどこがいいかわからない私なんかを想ってくれて。
何度も手を引いてくれた。
それでも強引に奪おうとしなかった。センセイへの想いを頭から否定することも。
ちゃんと正面から受け止めて、向き合ってくれてた。
「ありがとう……」