雨、ときどきセンセイ。
「お、どこ行ってたん?」
「あー…ちょっと、ね」
「それなに?」
「あ、クラス全員に配るプリント」
教室に戻るなり水越が私に声を掛けてきた。
今のチャイムは予鈴だから、廊下に生徒はぱらぱらとしかいなかったけど、教室の中では未だに立ち歩き賑やかな図だ。
「へぇ。なに?」
「え? あ、なんだろう…」
「吉井知らないで預かったの?」
「……偶然、頼まれただけだから…」
水越が覗き込むように私の手のプリントを見た。
そんな、このプリントの内容なんて正直どうでもよくて。
ただ、私はセンセイに昨日の話とか、センセイの話とか…したかっただけ。
だけど、センセイにとってそれがどうでもよくて。
そして、本当に偶然私が目の前にいたから、声を掛けてこのプリントを渡して来たのかもしれない…。
――ただ、偶然だっただけ――。
「卒アルの申し込み書じゃん。はえぇな」
「……」
「今、配っちゃったら?」
「え? あ、うん。そだね…」
「……手伝ってやるよ」
水越に言われて、授業の始まる約3分前にそれを前列の席のクラスメイトに手渡して行った。