雨、ときどきセンセイ。
センセイとピアノ
＊

「梨乃ーお昼…」
「あ、ごめん！　先行ってて！」


みっちゃんに声を掛けられた時には、私は既に席を立っていて。
私はみっちゃんに『ごめん』って顔しながら謝って、廊下へと走り出た。

手にはプリントの半分。

そのぺらぺらな紙一切れだけを握りしめて、向かう先は職員室。

本当は思い切った自分の思いを書いたこの紙を手渡しするなんて気まずい。
けど、全員で集めるときに誰かに見られたらマズイし、何よりそれまで自分の下にこれを置いておく程余裕もないから。

私は職員室と掲げられたプレートを見上げると、一呼吸置いて手の甲をドアに当てた。


「失礼します」


そう独り言のように呟きながら開けたドアを閉める。
昼時の職員室でも、教室と同じようなお弁当の匂いがほんのりと届く。

そういえば、センセイはいつもお昼何食べてんだろ。

そんな余計な疑問を頭にしながらセンセイのデスクに目をやった。
すると、センセイは真剣な目でデスクの上に集中していて、私の存在になんか気付いていなかった。


あ…まだお昼にしてないんだ。


そんなことをまだ思いながら、数メートルの距離を保ったまま私はセンセイに視線を向ける。

そんなセンセイの周りだけ、何の音もせず、時間が止まっているかのような…まるで絵画のような光景だと私は思った。


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