雨、ときどきセンセイ。

「何してんの?」


重いドアが開いた音と同時に、ドアを開けたその人物が言った。

私はただただ驚いたまま。

目を大きくして、息を止めて、顔を向けた。


「なんで…」


私の声は笑っちゃうほど掠れてて。
そんな様子で、“何かある”って気づかれてしまいそうで慌てて取り繕う。


「あ、私はちょっと、忘れ物あったから」


その私の返答を、素直に受け止めてくれたかどうかはわかんない。
けど、そこに立つ人物は、こう答えた。


「ふーん…どうせ途中で気付いて戻ってきたパターンじゃねぇの?」


鼻に手を軽く触れながら、バカにしたように笑う。
私はピアノから手を離して静かに蓋を閉じた。
そしてソイツと向き合って、逆に問い掛ける。


「そっちこそ、なんでここに来たの? 水越」


私の質問に、今度は戸惑った様子を見せる水越に近付いて行く。
すると、水越は目を斜め下に落として気まずそうに言った。


「…いや…吉井を見掛けて…上に行くし手をどこ行くのかな…って」
「ストーカーじゃん」
「違っ! …や、悪ィ…」
「…冗談だよ! じゃ、もう私帰るから」


これ以上この話を続けてしまうと、私が避けたい内容に流れていきそうだ。


そう思って、さらに明るくつとめて私は水越に軽く手をあげて横切ろうとした。

ドアノブに手を伸ばして握る直前、背中から声が聞こえた。


「一緒に、帰ろうぜ」


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