雨、ときどきセンセイ。
「確かに迷惑は掛かっちゃいねぇけどよ。ただーー…音楽室」
「え?」
「音楽室、なんか関係あるんじゃねぇのかなって」
鋭い突っ込みに、背中合わせだった態勢から、つい半分体を捻って水越を見てしまった。
「音楽室で誰か待ってるように感じたから」
それはあの日のこと…?
もしかして、あの日以外にも…?
どこまで、知ってるの?
そう心で思って口には出さなかった。
まだ、完全にそうと決まったわけじゃないから。
「…あたり?」
「…さぁ、ね」
「あ、ずりー。誤魔化したな!」
「それより、次じゃないの? こっちみてるよ、男子」
私が平静を装って答え、水越を待つチームメイトの視線を指摘すると「やべ」と言って水越はバレーのコートへと駆け寄って行った。
私は一先ずほっ、と息を吐いて水越を見た。
水越はもう私を見ないでプレーに集中してる。
白いボールだけに集中して、クラスの男子と無邪気に笑い合う姿は、普通なら多少キュンとくるとこなんだろうけど。
でも私が今そう感じられないのは、水越だからとかじゃなくて、“センセイじゃないから”だ。
センセイが、もしあんな風に楽しそうな純粋な笑顔で体育なんてしていたなら。
センセイが、もしさっきのように背中合わせで声を掛けてきたなら。
ーーーセンセイが、もしも…。
私の“もしも”はキリがなくて、結局体育の授業中はそんなことばかりで終わってしまった。