雨、ときどきセンセイ。

確か、これだ…。


白い小さい車に歩み寄って、そっと触れた。
きょろきょろと周りを確認してから、ちらりと車の中を覗き見る。


これって…ストーカー…?


職員室の机の上と同じように、余計なものは何もなさそうな車内を横目で見る。
だけどそれ以上は犯罪なような気分になって、車の後部の縁石にすとんと座った。

膝を抱えるようにして口元を埋める。

白いボディに夕陽が反射しているのをぼんやり眺め、それが消えてゆくまで動かなかった。


きっと、3年(受験生)の担任だし、そうそう早くは帰らないか…。


コンクリを見つめながら、ふと冷静に考えてその場を立とうとした時だった。
薄っすらと残る夕陽で出来た影がひとつあった。


「…こんなに粘る奴だと思わなかったよ」


その声に、すぐ顔を上げた。

薄暗くなった空のせいで、その顔ははっきりと見えない。
けど、目の前に立っているのは間違いなくセンセイだ。


「もっと淡泊かと思ってたのに」


驚きのあまり、私が何も言えずにいると、センセイは淡々と言葉を重ねる。


「見抜けなかったな」


ふっと小さく息を漏らしてセンセイが笑う。


その笑いは何?
呆れて笑ってるの?それとも降参したって意味で?


「『その“距離”を縮めるまで』…か。有言実行ってとこか」


混乱した私に、さらにセンセイは読めない表情で呟いた。

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