雨、ときどきセンセイ。

頭は下に向けながら、それでも私の視線はセンセイの大きな手。

その手をさっき咄嗟に引いたセンセイなら。
勘のいいセンセイだから、知らないことないはず…。


「私が、それと同じ理由でここに居たと思ってる…?」


その質問には、すぐに返事が聞こえない。

きっと、考えてるんだ。
“体(てい)のイイ返答”を。


「車に乗れる、なんて思ってない。ただ…ただ、1分でも。こういう時間が欲しかっただけ」


本当は強がりだったかもしれない。
でも、やっぱり私の願いはそれだったはずだし、香川先生と同じだと思われるのが、無性に嫌だったから。

言い訳がましい、見え見えの嘘だ、と取られたらそれまでだけど。

でも、否定しなければ気が済まなかった。


「―――わかってるよ」


そのセンセイの言葉に私の胸は再び脈打つ。


「『わかってる』……?」


そのセンセイの言った意味って…。

この場を早く終わらせるためにも聞こえる。
でも、顔はそういう面倒そうな表情でもない。

かと言って、到底私を受け入れたようにも思えない。


そうしたら、センセイが私から目を逸らして空を見ながら言った。


「お前は俺と同じだから、わかってるよ」



< 43 / 183 >

この作品をシェア

pagetop