雨、ときどきセンセイ。
頭は下に向けながら、それでも私の視線はセンセイの大きな手。
その手をさっき咄嗟に引いたセンセイなら。
勘のいいセンセイだから、知らないことないはず…。
「私が、それと同じ理由でここに居たと思ってる…?」
その質問には、すぐに返事が聞こえない。
きっと、考えてるんだ。
“体(てい)のイイ返答”を。
「車に乗れる、なんて思ってない。ただ…ただ、1分でも。こういう時間が欲しかっただけ」
本当は強がりだったかもしれない。
でも、やっぱり私の願いはそれだったはずだし、香川先生と同じだと思われるのが、無性に嫌だったから。
言い訳がましい、見え見えの嘘だ、と取られたらそれまでだけど。
でも、否定しなければ気が済まなかった。
「―――わかってるよ」
そのセンセイの言葉に私の胸は再び脈打つ。
「『わかってる』……?」
そのセンセイの言った意味って…。
この場を早く終わらせるためにも聞こえる。
でも、顔はそういう面倒そうな表情でもない。
かと言って、到底私を受け入れたようにも思えない。
そうしたら、センセイが私から目を逸らして空を見ながら言った。
「お前は俺と同じだから、わかってるよ」