雨、ときどきセンセイ。
「梨乃ー! いい加減起きなさいよ!」
ほんの少しだけ、そんな自分に自己嫌悪していたら、リビングからお母さんの声が聞こえてきた。
「起きてるよー!」
「じゃあご飯食べちゃってよね!」
「…はーい…」
休みの日は大抵こんな感じで。
私はお母さんの声に背中を押されてようやく体を起こして立ちあがる。
未だにスウェットのままリビングに降りると、お母さんは既に出掛ける用意が済んでいるようだった。
「梨乃! お母さん、今日ちょっと出掛けてくるから」
「はーい」
「あんた、いくらなんでも勉強したり、春に向けて準備しなさいよ! 昨日なんにもしてなかったでしょ」
「……はい」
鋭い視線を向けられた私は、それを見ないようにしてソファに座る。
ソファから見える和室には、思い返せばずっと触っていないピアノがあった。
「今日とっても天気いいから。散歩がてら本屋にでも行ったら?」
「んー…」
「あ! 時間ない! じゃあ行ってくるね!」
「はいはーい」
お母さんが慌ただしく玄関から出て行った音を聞き終えて、窓を見る。
確かにレースのカーテンから射し込む陽射しが、冬にしては暖かく感じる。
その陽射しに珍しく私は、出掛けてみよう、と思った。