雨、ときどきセンセイ。

大抵晴れた日は中庭でお昼を過ごす。

昨日の大雨が嘘のように晴れている今、ベンチもすっかり乾いていて難なく座ってお弁当を食べることが出来た。


「次選択だねーあたし美術だ」


みっちゃんが他愛ない会話を私にしているのに、私は晴れた空を見上げて昨日のことを思い出していた。

昨日の放課後―――雨。黒い傘。真山センセイ――。

そんな連想をしていたのは今日初めてじゃない。
実は朝のSHR(ショートホームルーム)から、暇さえあればずっと。

だって、あんな表情(カオ)見せることないし、見たことない。

ただ、“悲しい”とかじゃなくて、もっとなんか深い感情。

それをあの普段“完璧”なセンセイが見せた顔だからどうにも私の頭から離れないでいた。


「――ちょっと! 梨乃?!」
「えっ?! あ、なに?」


あまりにボーっとしていたから、みっちゃんが私の顔を覗き込むようにして声を上げた。


「何? 考え事?」
「あ、うん。別に大したことじゃないの!」
「ふーん?」


若干疑いの眼差しを私に向けながらみっちゃんはしぶしぶ納得したようにまたお弁当を食べ始めた。

…いくらみっちゃんでも、こんな内容の考え事なんて言えない。
大体今まで真山センセイには興味ないって散々言ってきたし。

でも、本当は、昨日のセンセイのことを誰にも言いたくないって心のどこかで思ってる。

私だけの、センセイの記憶―――。

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