雨、ときどきセンセイ。


――――セ ン セ イ ?



大きな通りの信号は、なかなか青には変わらない。
その時間が長いから、気付かなかったかもしれないことに気付いてしまう。


あれは

あの、白い車は、

センセイの車だ。



スーツじゃない、休日のセンセイ。
そして、車内にはセンセイだけじゃないことにも気が付いてしまう。

だって、なんか話をしているようだから―――。

センセイだと分かった瞬間から、外の寒さも、周りの人も、景色も。
通り過ぎていく街の音も、何も感じなくなっていた。


急に白黒の世界になった、目の前の景色。


そんな中、車は私なんか関係なく走り出す。

一瞬見えた助手席には、髪の長い、赤っぽい色の服を着ている女の人が乗ってたのを認識できた。


唇が―――喉が、渇く。
目は今にも零れそうに潤む。
息が、上手く出来ているかわからない。
立っている感覚すら、感じられない―――。


「――――っ、吉井?!」


後ろから聞こえた声と、掴まれた肩の感触で、私は一気に現実に引き戻された。

止まっていた時間(とき)から動き出した勢いで、その手の主を振り返る。


「み、水越」
「なんだ?! 貧血か?!」


血相変えて、私の顔を真剣に見ながら水越は言った。


どうやら、あの“止まっていた時間”で、私がふらりと車道によろけそうになったらしい。


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