雨、ときどきセンセイ。

「吉井はバス一本?」
「えっ、あ、うん」


じんわりと汗をかいていた手から、顔を上げた。

吊革に手を掛けた水越が私を見下ろしていた。
その目が、すべて見透かしているようで…。


「み――水越は…乗り換えか!」
「…そ。遠くて不便」
「そうだよね。学校より向こう側だもん…ね」


「学校」と、自分でまた連想してしまうことを発してしまって強張る。


「……なんかやっぱり最近おかしくねぇ?」


水越が核心を突いてくる。


「なんかあったのか?」


その質問に、答えるべきか否か―――答えるとするならば、なんて言えばいいのか。

バスの騒々しいエンジン音が聞こえる。
そのほかは、一切声も耳に届かない。

私は必死に答えを探していると、さらに水越が私を追いこむ。


「―――真山と」


ちょうど次のバス停に着いて、プシューッとドアの開かれる音が聞こえた。

だけど、その音の方向を私たちは見ることをしない。

お互いに、黙って目を合わせるだけで。


「べ…つに…“なんか”なんてなんにも」
「じゃあどうして昨日あんなとこで二人でいた?」
「……偶然」
「校門は駐車場通らなくていいはずだろ」
「なんでいちいち水越に報告しなきゃなんないの?! 大体どうして水越こそ昨日ッ…」


“あんなとこで待ち伏せしてたの”


言いかけて、止めた。

でも、もう遅い。





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