雨、ときどきセンセイ。
すると、水越からなんの反応も返ってこなくなって。
さすがに気になって水越をゆっくりと見上げてみる。
水越は吊革に添えた両手に額を付けるようにして何か考え事をしているような顔をしていた。
そして、その額を手から離して口を開く。
「それって、どう捉えればいいの?」
「え…?」
「『ごめん』て、オレ、振られた感じ?」
「や、う…ん…」
ごにょごにょと私はハッキリと出来ない。
「振られた」とか本人に言われると、良心が痛む。
そんな曖昧にする意味なんかないはずなのに。それが逆に相手を傷つけることになるって予想出来るはずなのに。
それなのにハッキリとこの場で突き放せない私は“都合のいい勝手な女”だ。
「わかった」
そんな私を置いて、水越はなにか吹っ切れたように言う。
私は不思議そうに水越を見る。
「別に今、興味がオレに向いて無くてもいいや」
その先、何を言うんだ、と私は目を見開いて水越の言葉に耳と頭を集中させた。
「その興味が飽きる時が来るかもしれない。“先生”相手ならなおさら」
“そんなことない。センセイっていう肩書きに惹かれたわけじゃない”
そう思いながらも、
“―――もしかして、センセイという別の立場の人だから珍しく見えてるだけなのか”
そんな二つの考えに揺らぐ。
「先生って手の届かない存在、みたいな…有名人の感覚に近いかもしれない。でも、オレは―――多分、吉井の身近な存在ではあると思うから」
水越の言ってることに、反論しようと思えなかったのは…。
きっと、さっき見た白い車のせい。
確かに遠い存在だ――――。