雨、ときどきセンセイ。
「梨乃、次の体育、私当番だったー。付き合って?」
「うん」
授業が終わってすぐにみっちゃんの声が聞こえて振り返る。
ジャージが入ったバッグを手にして席を立つと、香山先生はまだ教壇にいるようだった。
みっちゃんと後ろのドアを出て歩く。
横目で見た隣のクラスのドア付近には、相変わらず女子に捕まっている真山センセイの姿があった。
「あーあー、相変わらず。モテますねぇ…」
みっちゃんもその光景には気付いたようで、そんなことを私にだけ聞こえるように言った。
私はそれに何も答えずみっちゃんの隣を歩き、角を曲がりセンセイに背を向ける。
「数学に関係ないことは答えません。はい、どいて」
「えー」
「じゃあ、どーすれば数学出来るようになりますかー?」
一歩一歩センセイと女子からは遠ざかってるはずなのに。
やけにその会話は鮮明に耳に届く。
「まず、このムダ話の時間を数式憶える時間に充てたら」
そのセンセイの話し方は冷たくもなく。
もちろん優しくもない。
きっと微笑にも、真顔にも見えるような微妙な表情で今日もうまくかわしてるんだ。
「あ、真山先生」
その呼び声に歩くスピードが弱まった。
「ちょっといいですか? よければ職員室で」
「…はい。構いませんけど?」
距離を開いてたはずが、どんどんとまた声が近くなる。
それは気のせいじゃなく、事実、本当に私に近づいてきてるんだ。