雨、ときどきセンセイ。
私とみっちゃんが数メートル前を歩き、その後方からセンセイと香川先生の足音が聞こえ続ける。
足音や話し声からして、二人の音しかしないから多分、女子生徒は諦めてまとわりつくのをやめたんだ。
「昨日はどうもありがとうございました」
香川先生のその言葉に、自分の想像が合っているのでは…と思い、息を潜めながら耳を澄ます。
「…いえ。あれくらいなら」
“あれくらい”って何?
昨日はどこで、何を話して…どうしてたの?
私の中で勝手にセンセイたちの会話に入り込む。
「この時期体育って寒いからやだよねー。汗もかきたくないし。ね? 梨…乃」
みっちゃんの話に集中しよう、集中しようとしてたからだ。
私の足は宙に浮いた感覚になって、ぞわりとして全身の力が一瞬抜ける。
そして自分がこれからどうなるか…。
視界に入った階段を最後に目をぎゅっと閉じた。
「………?」
…痛く、ない。
代わりに腕がちょっと、痛い。
完全に階段の上から落ちたと思った。
「…お前、最近、注意力なさすぎ」
腕を掴んで私を支え、そう漏らしたのは…。
「梨乃! 大丈夫⁈ 水越、ナイス!」
「み…ずこし……」
昨日といい、今日といい。
この男はなんてタイミングで現れるんだろう。
ハッキリ言って、こんなに都合よく助けられ続けたら誰だってちょっとはときめいちゃうよ。
「あ…ありがとう…」
私が水越を見上げてお礼を言うと、水越はちらりと後ろを見て、また私に向き直した。
「…水越…?」
何にも言わないで、まだ私の腕を掴む水越は何か言いたそうに思えた。