雨、ときどきセンセイ。
「あ! 私時間ない! 梨乃、先行ってるからっ」
「え! ちょっと、みっちゃん!」
みっちゃんはそう言い逃げするように階段を駆け下りて行ってしまった。
…もう!
絶対へんな気を遣ったんだ!
そういうの、余計なお世話なのに!
気まずい雰囲気になりそうな、その時。
私と水越に声を掛けてきたのは香川先生だった。
「吉井さん、大丈夫だった?」
今一番聞きたくない声で、名前を呼ばれ、駆け寄られる。
仕方なく少し顔を向けてから、小声で私は答えた。
「……平気です」
「本当…? 良かった!」
「…お騒がせしました」
俯いていてもチラリチラリと視界には鮮やかな赤が入り込んでくる。
その赤色が遮ってセンセイがどこにいるか、わからない。
「失礼します」
これ以上耐えられない。
私はなるべく普通に言って、駆け降りたいくらいだった気持ちを抑えて、足早に階段を降りた。
そしてその私に水越はついてくる。
完全に香川先生との距離が離れた時に、水越が言った。
「…香川センセと真山って…」
「…なに」
水越は私を好きだと言う。
その私は真山センセイが気になるってことも知ってる。
だから、単純に。
ただ単に、私のセンセイに向けてる好意をなくすように言いたいのかと思った。
水越の話を最後まで聞くまでは。
「…や、なんでもね」
「なによ。“デキてる”説かなんか、言いたいんじゃなくて?」
棘のある言い方に、我ながらヒドイと思う。
ごめん、水越。
でも、私、余裕ないんだよ。