雨、ときどきセンセイ。
「いや。ほら、急ごうぜ。体育館…」
水越が私を追い越してジャージの入ったカバンを肩に掛ける。
その後ろ姿に、私は余計な意地で投げかけてしまった。
「いいから、思うこと言ってよ!」
それは強がりと、怖いもの見たさのような心境からの興味。
水越は一体何を思ってるのか。
そうしたら、ピタッと足を止めた水越がゆっくりと振り返って真剣な眼差しを向けて言った。
「……昨日、バスん中から見た」
「『見た』…?」
って、なにを?
そう心で反応しつつ、頭の隅では予測していることがあった。
それが当たっているなら、その先はもう聞かなくていい。
だけどもうその続きを水越に拒否する権利はない。
「香川センセと真山が校舎から出てきたとこ」
ドクッと大きく脈打つ心臓。
その後はまるで全力疾走したかのような鼓動の速さ。
けど、水越が次に口にした言葉でその鼓動が嘘のように止まった。
「香川センセ…昨日と同じような服装だった…気が……」
時間と心臓が止まった気がした。
人って、あまりに衝撃を受けると全て止まってしまうんだ。
そんなことをどこか冷静に思ったりして。
「…吉井?」
「…赤い、服?」
「…コートからちらっと見えた感じが赤色だったから目立ったんだ」
「…そう…」
コート…。
車内では脱いでたんだ。
そんなに長く、車に乗っていたの?
「もしかしたら、たまたま似たような服なのかもしれない。悪い。変な風に言っ…」
「でも、もしかしたら、昨日と同じなのかもしれない」
水越の気遣いをあっさりと切り捨てる私。
ほんと、可愛げがない。