雨、ときどきセンセイ。
「どーだった? なんか進展アリ?」
ジャージに着替えて更衣室から出た途端、みっちゃんが待ち構えていたようでニヤつきながら声を掛ける。
「……ナシ」
「えぇー」
違う意味での進展は、私の中であったけど。
チラリとネットの向こうにいる水越を見る。
「あー。熱視線! ちょっとイイな、ってなってきた?」
相変わらずなみっちゃんのノリ。
何にも言わない私だから、知らなくて仕方ない話なんだけど。
「“イイな”…か」
水越って、ズカズカ足を踏み入れるのかと思ったら、案外…大人なんだな。
つけ込むチャンスとばかりに煽ってくることも出来たはずなのに。
でも、水越は自分の意思で言うのを止めようとしてた。
多少脚色して話せば、もしかしたら自分に分が出てくるかもしれないこの状況で。
そんな水越の評価は、悔しいけれど上がっちゃう。
「あ、降ってきたみたいだね」
体育館から外に出られるドアの窓についている水滴を見て、みっちゃんが言った。
――雨。
こんな時に。
今、雨の日のセンセイに会っても、なんにも言えないよ。
怖くて。
「今日、曇りの予報だったのにィ」
みっちゃんが口を尖らせてぼやいた。
サァァ…と静かに響く雨音は、どこか私に落ち着きを与え、そしてもう一方で悲しくさせていた。