雨、ときどきセンセイ。
肌寒い微風が頬を撫でる。
薄暗い空の下に、雨と同化するようにただそこにいた。
水溜まりに雨が弾ける音と。
道路を走る車の音を目を閉じて聞いていると、そこに今までなかった音を拾って目を開けた。
靴の音。
その歩調で、なぜだかセンセイだと私はわかった。
おもむろに傘もささず、屋根の下から一歩踏み出す。
降り注ぐ雨で、私の足音も気配もかき消されているみたいで気付かれない。
白い車の手前でようやくセンセイは私に気付いて足を止めた。
「雨…降ったよ?」
「見りゃわかる」
「バス、行ったばっかり」
「…それで?」
「…傘、忘れた」
打たれる雨に少し目を細めて私を見るセンセイ。
土砂降りとまではいかないけれど、それなりに雨が降る中で、私たちはお互いに傘をさしていなかった。
「香川先生は特別?」
私はセンセイから視線を車に移して言った。
「私がセンセイと“同じ”だって言うなら、わかるよね…」
今の私の言いたいことを。
思っていること、言葉で表せない感情を。
「おまえ、まさかずっと外に…」
細めていた目を大きくして、センセイが私を見る。
その目を私は真っ直ぐ見つめ返す。
ごまかさないで。
目を逸らさないで。
このまま逃げたりしないで。
すると、センセイは車に歩み寄って助手席のドアに手を掛けた。
そのセンセイの行動に、私の胸が高鳴る。
――もしかして。
そんな淡い期待を抱いて。