雨、ときどきセンセイ。
ピッ…ガチャ、とヘッドライトが一瞬光って音を鳴らす。
そしてセンセイはドアを開けた。
「コレ、貸すから」
そう言って、私に差し出したのはあの日のものであろう黒い傘。
半ば無理矢理それを私の手に乗せると、センセイは車のドアを閉めて言った。
「『とうとう告った』、んだろ?」
濡れた前髪を指でよけて、私を見ずに静かに笑った。
「聞いてたんだ…」
「聞こえてきた、が正しい」
手にある黒い傘をぎゅうっと握りしめる。
それを聞いても、やっぱりなんとも思われてない。
少しでも…ほんのちょっとでも。
なにか思うことがあってくれたら、なんて願ってた。
でも、この手にある傘が。
閉められた助手席のドアが。
センセイの答えなんだよね。
「好きです」
俯き、私とセンセイの間にある小さな水溜まりに落ちる雫を見ながら言う。
「コントロールが利かない」
顔をあげることが出来ないまま、ぽつりぽつりと言葉を繋げていく。
「香川先生と一晩一緒に過ごすような関係だってわかっても、私は助手席(そこ)に乗せてもらえないってわかっても…」
私の気持ちが渦巻いてるせいか。
雨がさっきよりも強くなってきた気がする。
「それでも私は、水越でも、他の誰かでもなく、センセイのことが――」
それ以上は喉の奥が乾いて、目頭が熱くなって、言えなかった。
くるりと体を回してセンセイに背を向けた。
それでもセンセイは無言のままで、ただただ雨音だけがしばらく響く。
耐えられなくなったのはもちろん私の方。
そのまま振り返らずに走り出した。
「――吉井」
そんなセンセイの呼ぶ声なんか、この時私に届いてやしなかった。