雨、ときどきセンセイ。
「……っ」
けたたましく水しぶきをあげながら校門を出る。
目と鼻の先にあるバス停が見えると、力なくゆっくりと歩を進めた。
私は手にある傘を力一杯握り締めるだけで、それをささなかった。
雨が、流してくれる。
今、目から零れている涙を。
けれどこの晴れない思いと記憶は流れたりはすることなくて。
「……っく……」
私は肩を震わせて、声を押し殺してバスを待った。
先生という立場の人じゃなければ。
同じ高校生だったら。
私が香川先生のように大人なら。
もう少し違う結果になってた?
考えても考えても、答えはわからない。
誰も教えてくれない。
体は雨で冷えてるはずなのに、胸の奥が熱い。
まだ、消えない。
そんな急に冷めるはずがない。
この短い間のセンセイの記憶が蘇る。
夕陽の入る音楽室で、ピアノと向き合う姿。
職員室で、机に視線を落としてる真剣な姿。
廊下や教室で女生徒に囲まれながらも、涼しい顔をして。
授業中は、常に生徒全員を気に掛けて。
話をする時には必ず目を見て話す。
プリントもマメに作成して――必ず、私の問い掛けに返事を記入してくれた。
ふっ、と淋しそうに。
でも、優しげな瞳で笑う顔。
雨の中での、なんとも表現し難い切ない表情を。
あの視線の先には何を映し出していたんだろう。
今日も、雨。
センセイ。
誰を想って、何を想って。
また、あの日と同じように、遠くを見つめているの?
それを知りたい。
共有したい。手を繋ぎたい。心を通わせたい。
そう思うことは、迷惑……?
勘違いかもしれない。
だけど、あの悲しいような顔をするセンセイに少しでも笑顔に近付けさせたくて。
やっぱり私はセンセイを忘れられないんだ。